
scene.8
…… 志 月 ……
(………。 忍?)
呼ばれたような気がして、志月は振り返った。
灼ける様な陽射し。
乾いた風。
眼前に広がるのは、何処までも白い砂の海。
細かく砕いた白石英を巻き散らかした様だ。
(また、俺は…夢を、見ているのだろうか……?)
こんな風景が、現実であるはずが無い。
(ならば、これは夢なのだろう)
…… 志 月 ……
陽炎の様に遠くで揺れる影。
( 忍 )
風が白い砂を巻き上げる。
その所為で、顔がよく見えない。
…… 来 る な ……
(来るな…?)
向い風に乗って、声が
どういう事だと、影に一歩近付く。
瞬間
ゴトッ…
影の腕が落ちた。
左腕だ。
…… 来 ちゃ 駄 目 だ ……
もう一歩、近付く。
ゴトッ…
また、落ちた。
今度は右だ。
(近付けば 近付く程、忍は 毀れる の か ?)
怯んだ志月の、足が止まる。
その時
まるで、その背中を押す様に、強い追い風が吹き付けた。
だめ、志月。
耳のすぐ後ろに、別の声が囁く。
…… 逃 げ、 て 志 月 ……
逃げちゃ、だめ。
…… 来 ちゃ い け な い ……
遥か前方と、すぐ後ろから、別々の声が響く。
さあ、行きなさい…!
背後から、ひと際大きな声が命じる。
反射的に振り返るとそこには、忍によく似た面立ちの少女。
少女は、忍と正反対の鋭い視線を持って、少女は遥か前を指し示したかと思うと、忽ち霧散して掻き消えた。
(今のは…)
『 』
埋まらない空白を埋める名前。
知っているはずの名前。
大切な名前。
しかし、志月が今呼ぶべき名前は
