scene.6
階下の電話がけたたましく鳴り響いた。
その音が、二度寝していた志月を引き起こした。
時計を見ると、夜の十一時だった。
急いで一階へ階段を駆け下りる。
この時間まで眠り続けていたと言う事は、忍はまだ家に帰っていないのだろう。
幾ら何でも少し遅過ぎやしないだろうか
何事も無ければ良いのだが。
気にし始めたら、キリが無い。
(でも、もし )
篠舞の様に、突然いなくなってしまったら?
鳴り続ける電話を前に、数秒間、志月は受話器を上げる事が出来なかった。
絶望的な報せを受けた日と同じ様に鳴り響く電話を、志月はしばらく睨み付けていた。
一度大きく深呼吸をした。
とにかく、切れてしまってはどうしようもない。
志月は、静かに受話器を取り上げた。
電話は、忍を連れ出していった上級生からだった。
宴席で潰れてしまったので、自宅で休ませている そんな内容だった。
(無事 だった)
志月の口から、安堵の息が洩れた。
そしてそれと同時に、胃の底が焼ける様な怒りが、志月の中でじわりと滲んだ。
帰るのが遅い、とか
連絡も遅い、とか
(分かっている。こんなのは、ほとんど八つ当たりだ)
本当に志月が怒っていたのは、帰ってこなかった彼女の事なのだ。
もう一度大きく深呼吸をして、志月は車のキーを握った。
いつもは静かな庭先に、慌しく発進する車の音が響き渡った。