scene.7

 気だるさに身を任せたまま目を開けると、とうに日が落ちた室内は暗く、微かな残光が辛うじて室内の輪郭を浮かび上がらせているだけ。
(あれは、いつの事だったか)
 先刻の夢  志月は高校生で、この屋敷から隣の駅の都立高校に通っていた。
 あれは、もうずっと昔なのか。
 それとも、昨日の事か。
 夢の中には、忍と同じ顔をした少女がいる。
 それとも、忍が彼女と同じ顔をしている?
 全ての記憶が混乱して、曖昧で、繋がらない。
 まるで、水の中で世界を見ている様に、音も光もすっかりぼやけてしまっている。

  彼女は誰だ?

  忍と同じ顔。

  忍が、同じ顔?

  彼女は忍なのか?

  彼女は何処へ?

『クリスマス会に行ってきます』

  ああ、さっきそう言って出かけたのか。

  帰ってこない。

  帰って来れない?

  忍は、何処へ?

  クリスマスで、集まりが…。

  もう、帰って来れない。

  会えない。

  会えない。

  会えない。

  会えない。

 記憶の回線が徐々に混線してゆく。
 時間軸が曖昧になり、学生時代と現在の記憶が混ざり合ってゆく。
 そのくせ、肝心な事は綺麗に抜け落ちているような  
(しっかりしろ…篠舞は篠舞だ。忍は  篠舞じゃない)
 両手で目を覆い隠し、閉じた視界の中で再び絡まった糸を解こうと試みる。

 重なる二つの輪郭をもう一度バラバラに別けなければいけない。

 蓄積された情報の海は混沌としていて、どの記憶が何処へ仕舞われるのか分からない。

 再び目を閉じる。
 睡魔に誘われながら、夢の続きが始まる。


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